スナフちゃんブログ

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僕と馴れ馴れしいコンビニ店員の話

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僕は最近馴れ馴れしいコンビニ店員が嫌いだ

いや、嫌いというか苦手なのである
 
 
馴れ馴れしいコンビニ店員とは具体的には、
「レジでお会計を行う短時間に世間話をねじ込んでくる」
「仕事終わりに寄ると『今日もお仕事お疲れ様です」などと言う」
「常連客が来ると何も言われなくても好みの銘柄のタバコを用意する」
というような、マニュアルの範囲を逸脱した行動を取るコミュニケーション能力と行動力の塊のような人種である


端から見れば「接客業に従事する者の鑑のような店員じゃないか」と思われるかと思うが、僕はそうは思わない
なぜなら「コンビニはただコンビニエンス(便利)な場所であれ」というのが僕の持論であり、そこに便利さ以外の余分な要素は求めていない
ましてや、コミュニケーションなどはコンビニという、いいとこ5分程度しか滞在しない場所にとって、不要なものの最たるものであると僕は考えている


だから、コンビニの店員諸兄は、僕のような特徴のない客の顔など覚えなくていいし、入店した際に「ジャンプもう入ってきたから出しましょうか?」とか、レジの時に「こないだお探しだったドリンク入荷しましたよ」とか、からあげクンを注文する時に「いつものチーズで良いですか?」とか、マニュアル以外の余計なことを言わないでほしい
からあげクンレッド」を頼みたい時だってあるのに頼みにくくてしょうがないではないか
 

しかしながら、僕だってオギャアと泣いた時から馴れ馴れしいコンビニ店員が苦手だったわけではない
森羅万象全てのことに何かしらの理由があるように、僕が馴れ馴れしいコンビニ店員を苦手と思うようになったのにも確固とした理由があるのだ
この話をするには、10年ほど歴史を遡らなくてはならない
 
 
10年前、まだ21歳だった頃、僕は美容師などという世間様から見ればチャラチャラした職業をしていた
正確には「美容師アシスタント」であり、文字通り先輩美容師のアシスタントをするのが仕事であった
皆さんはご存知ないだろうが、美容師という職業はとても大変な仕事である
皆さんが思っている2.75倍は大変な仕事である
一日中立ち仕事だし、腰は痛めやすいし、薬品で手は荒れるし、給料はアホみたいに安いし、拘束時間はリュウグウノツカイのように長い……今これを書きながら当時のことを思い出して少し気分が悪くなってきたところである


さて、そんな皆さんが思っている2.75倍は大変な日々をヒィヒィ言いながら過ごしていた僕だが、僕には二つの楽しみがあった
一つは自宅に帰って趣味の小説を書くこと
昔から何かしらの文章を書くことが好きだったのだが、この頃自分のパソコンを手に入れたことにより、夜な夜な自室で小説の出来損ないのようなものを書いていた
二つ目は深夜のコンビニに行くこと
正確には単に「コンビニに行くこと」が好きだったのではなく「夜の人通りのない道をタバコを吸いながらブラブラ歩いてコンビニに行くこと」が好きだったのだ
今考えると「自室で小説(の出来損ないのようなもの)を書き、疲れると気分転換にタバコを吸いながらフラフラとコンビニに行く」というのが、昭和の作家志望の学生ようで、その洒落たシチュエーションに酔っていたのかもしれない


そんなわけで僕は毎日、仕事から帰ってくると晩御飯もロクに食べずに自室に籠もって小説を書き、疲れるかお腹が空いたら、コンビニで適当な食べ物や飲み物を買ってきて夜食とし、また夜中まで小説を書くという日々を過ごしていた
ちなみに小説を書き始めた理由は、美容師の仕事に1年ほどで嫌気がさし、「小説でなんかの賞を取ったら小説を書かなくてはいけなくなるから必然的に美容師を辞めれる」というどうしようもないものである
当時の僕に今の僕が声をかけられるならこう言うだろう
「早く寝ろ、夢は寝てから見ろ」と
 
 
ある日のことである
朝仕事に向かおうと家を出ると、徒歩30秒ほどのところに新しいコンビニが出来ていた
僕の家は割と都会なので、コンビニも家から500m以内の範囲に7〜8軒はあった
それまで通っていたところは歩いて2分ほどのところだったが、30秒ほどのところに出来たとなれば、こちらに鞍替えしない理由はないだろう
僕は早速その日の夜に、家から30秒のコンビニに行ってみることにした


深夜1時ごろ、喉が渇いたので、いつものように歩きタバコをしながらコンビニへと向かう
が、30秒で着いてしまうのでタバコを吸い終わる前に店の前に着いてしまう
ありがたいことに店の前には灰皿が設置してあったので、そこでタバコを吸い終わるまでぼーっと夜空を眺めていた
タバコを吸い終わり、吸い殻を灰皿に捨てて店内に入ると、店内には少し人相の悪い男性店員がいた
背が高くがっちりとした体格で、年は恐らく40代
顔つきは俳優の高橋克実をやさぐれさせてメガネをかけさせたような感じだったので、仮に「タカハシさん」と呼ぶことにする
タカハシさんは入店した僕に気づくと、少しばかりぶっきらぼうな声で「いらっしゃいませ」と言った
接客にはあまり向いてなさそうな雰囲気だった


あまり気安さを感じさせないタカハシさんの雰囲気に、僕は何となく居心地の悪さを感じたため、目当ての品を買ってとっとと店を出ることにした
そそくさとレジを済ませ、お店を出ると背中から「ありがとうございました」という声が聞こえた
振り返るとタカハシさんがレジから出てきて、強面ながらにこやかな笑顔で見送ってくれていた
僕は、普通のコンビニ店員はしないであろうその気遣いに少しばかり感嘆し、「怖そうだけど悪い人じゃないんだろうな」などと考えながら、またタバコに火をつけ煙をふかしながら家に帰った


それから僕は、深夜1時前後にほとんど毎日のようにタカハシさんのいるコンビニに通った
タカハシさんもなぜかほとんど毎日のように夜勤で店におり、毎日のように僕と顔を合わせた
後で聞いた話だが、タカハシさんはそのコンビニのオーナーで、バイトが少ない夜の時間をカバーするために毎日のように夜勤を担当していたそうだ
 
 
毎日顔を合わせていると自然と顔も覚えられるもので、僕が店に入るとタカハシさんは知り合いのように「いらっしゃい」と行って笑いかけてくる
僕も「どうも」と言って毎日似たような品物を買って帰る
そんな日がひと月ほど続き、そのうちレジで軽い雑談などするようになった
最初は「家この近くなんですか?」から始まり、「お仕事終わるの遅いんですか?」などの世間話になり、もう少し慣れてくると「ジャンプは大体◯時くらいに入荷してきますよ」と友達のような会話をするようになった


こう書くと、馴れなれしい店員のようだが、タカハシさんの会話の距離感は「店員と客」としてとても心地よく居られるものであり、僕は深夜の5分程度のこの時間が嫌いではなかった
 
 
ある時、僕は少し頑張って300ページくらいの小説を書こうと一念発起し、2〜3ヶ月かけて一本の長編小説を書いた
理由は先ほども述べた通り、文芸賞に応募し、あわよくば何かしらの賞を獲得し、美容師を辞める理由を作るためだった
内容は確か、シティオブエンジェルという洋画を日本風にアレンジした様なミステリーと恋愛ものがどっちつかずになった様なものだったと記憶している
ちなみにこの小説は、当時流行っていたSNSmixi」でマイミク数人に読んでもらったところ「売ってるのと同じみたい」という評価を頂いたため、僕自身変な自信を持っていたのだが、今考えると「面白い」とは誰からも言われなかったので、つまりはそういうことだったのだろうと思う
 
 
僕の初めての小説は推敲に推敲を重ね、書きあがったのは応募締め切り日当日の午前2時過ぎだった
その日も例外なく仕事であったため、昼間に郵便局などに行くのは難しいと判断した僕は、書き上げたその足でコンビニに行き、エクスパックというサービスを利用して、その小説を応募することにした


コンビニに行くと、いつものようにタカハシさんが出迎えてくれた
レジに直行し「エクスパックをお願いします」と伝えると、タカハシさんはレジ奥の棚からエクスパックを1枚取り出して僕に渡した
僕はそれに応募先の編集部の住所と宛先を書いて、持ってきた応募用の小説を入れてタカハシさんに返す
 
 
お金を払ってお店を出ようとすると、タカハシさんに「小説書くんですか?」と聞かれた
恐らくエクスパックの宛名に「◯◯小説大賞係」と応募した賞の名前が書いてあったでの気づいたのだろう
僕は、「小説を書いていることが顔見知りの人にばれた」という、よく分からない気恥ずかしさを感じながら「しゅ、趣味で書く程度ですよ、今回書いたのは友人に評判が良かった(面白いとは誰も言っていない)ので応募してみようかと思っただけで……」といらん情報を交えてオタクのように早口に返答した
タカハシさんはいつものように笑顔で「頑張ってくださいね」とだけ言ってくれたのだが、僕は少しでもこの場から去りたくて、何も言わず会釈だけして店を出た


皆さんの中に、もし人にあまり話していない趣味をお持ちの方がいたら是非バレないよう気をつけてほしいものである
 
 
翌日からも僕のコンビニ通いは続いたのだが、一つだけ僕とタカハシさんの関係に変化が生じた
それはタカハシさんが僕のことを「センセイ」と呼び出したことである
タカハシさん曰く「小説家のセンセイだからセンセイ」とのことだが、僕は当時美容師であり、正確には美容師に顎で使われる美容師アシスタントであり、何よりどこにでもいるただの天パの若者だったのだ
何度もやめてくれと言ったのだが、タカハシさんは毎日柔和な笑顔で「あっセンセイいらっしゃい」と言い続けるので、僕も諦めてセンセイと呼ばれることにした
毎日、毎日、コンビニに行くたびにタカハシさんは僕を「センセイ」といい、僕はそれを苦笑いで受け流す
「センセイ、今日も書いてたんですか」
「そんな毎日書いてないですよ(笑)」
「ダメですよ毎日書かないと、センセイなんだから」
一見、面倒な会話のようだが、不思議とタカハシさんが言うとウザさは感じなかった
これはタカハシさんの持つ柔和な雰囲気と、深夜の変なテンションが合わさってこそ成せる技だったのではないかと今では思う
 
 
ちなみに、僕が寝る間を惜しんで書き、コンビニのオーナーのおっさんに「センセイ」と呼ばれるきっかけになった小説は、箸にも棒にもかからなかった
要するに一次選考すら通らなかったのである
タカハシさんは、「当時美容師であり、正確には美容師に顎で使われる美容師アシスタントであり、どこにでもいるただの天パの若者であり、何より賞の一次選考にすら通らなかった才能のない年下のガキ」のことを「センセイ」と呼んでいる変なおっさんであり、僕は「センセイ」でもなんでもないのに、年上のおっさんにセンセイと呼ばせている変な美容師であった


時々、別の客の前で「センセイ」と口を滑らせることがあり、そんな時は大体変な顔をされるので、タカハシさんのハゲ頭を引っ叩きそうになったことが何度もあった
滑りが良いのは頭だけにして欲しいものだ
しかしながら、後にも先にも僕を「センセイ」などと呼んでくれたのはタカハシさんだけだったので、今となっては良い思い出ではある
 
 
そんなタカハシさんと「センセイ」こと僕の関係は、その後1年ほど続いたのだが、僕はその1年の間に体調を崩して美容師を辞め、新しい職場に就職し働き始め、当時付き合っていた彼女と同棲を始めた
同棲を始めたということは、当然住んでいた実家からも離れたわけで、必然的にタカハシさんと会うことも無くなった
まあ、元々僕とタカハシさんの関係はコンビニの店員と客でしかなかったわけなので、会うことがなくなっても別に寂しさもないし、たまに実家に帰った時にそのコンビニでタカハシさんに会っても以前のように雑談を交わすことも無くなっていた
 
 
以上が、大体9〜10年ほど前の話であるが、この話には最近少しだけ続きが出来たためもう少しだけお付き合いいただきたい
 
 
昨年、実家に帰った時のことだ
帰宅途中、タカハシさんがオーナーを務めていたコンビニの前を通ると、建物の中には電気が点いておらず、ガラス張りの中に見える店内は伽藍堂のようになっていた
少しだけ動揺しながら家に帰り、母に「あそこのコンビニなくなったんだね」と聞くと、母から衝撃的なことを言われた

「あそこのコンビニ、この間オーナーが亡くなって閉めちゃったらしいわよ」

僕は絶句した
少しの間の後、気を取り直したが「へぇそうなんだ」と返すのが精一杯だった
詳しいことは分からないが、タカハシさんは見た目よりもだいぶ若かったそうで、所謂「働き盛りの男性の突然死」というやつらしかった
近所では「夜勤のし過ぎで体調を崩しがちだった」というよな話があったとかなかったとか
 
 
亡くなったことを聞いた後の深夜1時、僕は伽藍堂になってしまったコンビニの前に行って、タカハシさんのことを思い出した
 
 
最初は怖くて話しかけようだなんて思わなかったタカハシさん
話してみると気さくで、笑顔が柔和なタカハシさん
買うのを止めたと言ってるのに、毎週「ジャンプはいいの?」と聞いてくるタカハシさん
僕のことを「センセイ」と呼び出したタカハシさん
最後まで「あの賞には1次すら通らなかった」って伝えられなかったタカハシさん
でも「センセイ」と呼び出した後は、賞のことは一切話題に出さなかったタカハシさん
 
 
思い出しても泣きはしなかった
そもそも、この日コンビニの様子を見るまでタカハシさんのことを忘れていた自分に泣く権利など無い
でも、なぜかとても悲しい気持ちにはなった
高橋克実似のハゲたおっさんなんかに、こんな悲しい気持ちにさせられるなら、深夜にあのコンビニになんか通わなきゃよかった
あのコンビニで小説賞への応募なんかしなきゃよかった
そんなことを考えながら、実家までの30秒の道のりを、タバコの煙をふかしながらゆっくりゆっくりと歩いて帰った
10年前のあの日のように


 
 

僕は馴れ馴れしいコンビニ店員が嫌いだ

いや、嫌いというか苦手なのである
 
 
馴れ馴れしいコンビニ店員とは具体的には、
「レジでお会計を行う短時間に世間話をねじ込んでくる」
「仕事終わりに寄ると『今日もお仕事お疲れ様です」などと言う」
「常連客が来ると何も言われなくても好みの銘柄のタバコを用意する」
というような、マニュアルの範囲を逸脱した行動を取るコミュニケーション能力と行動力の塊のような人種である


端から見れば「接客業に従事する者の鑑のような店員じゃないか」と思われるかと思うが、僕はそうは思わない
なぜなら「コンビニはただコンビニエンス(便利)な場所であれ」というのが僕の持論であり、そこに便利さ以外の余分な要素は求めていない
ましてや、コミュニケーションなどはコンビニという、いいとこ5分程度しか滞在しない場所にとって、不要なものの最たるものであると僕は考えている


だから、コンビニの店員諸兄は、僕のような特徴のない客の顔など覚えなくていいし、入店した際に「ジャンプもう入ってきたから出しましょうか?」とか、レジの時に「こないだお探しだったドリンク入荷しましたよ」とか、からあげクンを注文する時に「いつものチーズで良いですか?」とか、マニュアル以外の余計なことを言わないでほしい
からあげクンレッド」を頼みたい時だってあるのに頼みにくくてしょうがないではないか
 
 
 だから、これからどんな馴れ馴れしいコンビニ店員が現れようと僕は仲良くしようとは思わない
僕が仲良くするコンビニ店員は、これまでも、これからも、一見強面なのに笑うと笑顔が柔和な、高橋克実似のおっさんだけで十分だから